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伊豆半島のとある別荘地へ。

 

起伏の多い住宅地を歩いていくと、サイディングで覆われた住宅が見えてくる。

敷地北側の門を抜けて、緩やかというよりは少し勾配のある舗装路を登る。右手には新設されたデッキとその奥に改修された住宅が佇む。

玄関の扉を開けると、紫がかった淡い白が飛び込んでくる。次いで、黒紫で塗装されたスチールの手摺がコントラストを生んでいて、一瞬作品と背景のような関係性に見えた。

 

挨拶を済ませてから2階へ。2階に上がり、書斎や寝室に視線を向けると、その方角が海に正体していることが分かる。風や視線が通り抜けて、シンプルに気持ちのいい空間。

あと、空間の各所にあるカーテンが効いている気がした。柔らかいけど静止している壁のような存在が、建具よりも軽やかな印象と共に空間内を移ろうことで、視線や空気の抜けを促進している感じがしてこの場所に建つことの特性を反映しているかのようにも思えた。

 

改修ということもあり、全体を一つのルールで決定していく(きっと何かしらのルールはあるにしても)というよりは、各所での選択と決定の連続で構築された空間という印象。ただ、個人的には改修というよりも新築を体験した気分になるほど充実していた。

その中のひとつに「対置による決定」ということがあるのだと思った。既存のテクスチャーや色の隣接関係から、隣の部屋や隣の空間からの見え、さらには窓の先に広がる伊豆半島の風景に至るまで広範囲で環境を捉えながら。

 

あとは見た目以上に構造をいじっていないというのが意外にも思えた。むしろ意匠としての構造を付加していたくらい。

柱をふかす、柱に巻き付ける、偽の梁を壁に貼り付けるといった、足していく操作が多く、空間の内側に向かって迫ってきているのに対して、窮屈な感じが全くなく、それがなぜか不思議だった。

 

浴室の床勾配が始まる場所がリビングから見えない位置にある話も面白かった。フラットな床に浮かぶバスタブという見え方の狙いという面と、水勾配の不在を思わせるある種エラー的に思える面とが共存しつつも紙一重に語られるところが。

 

メインの白紫の床、壁、天井をはじめ、フローリングの黄から決定された合板の白、暖色の灯りに照らされるとさらにピンク味がかる壁面など、白って200色あんねんということが如実に感じられる解説ツアー付き。

 

説明を聞く前と後で見え方の解像度が(当然といえば当然だけど)変わった。

彼の説明を聞いていると、常にレファレンスとの距離を意識していることが伝わってきた。参照するものとしないもの、参照する加減としない加減など、そのつまみをチューニングするようないわば設計の本質的な部分を垣間見た。個人的には2階寝室にあった造作のヘッドボードがお気に入り。

 

全体を通してとにかく解像度が高かった。大島さんとお話した際にご本人が細かいところまで気にしているのでその影響もあるとは思うと仰っていたが、それにしても圧倒されたというのが正直な感想。年末にモデリングやレンダーを見せてもらっていたとはいえ、建築空間は常に体験とセットで語られるべきなのだなということを改めて実感した。

 

 

都内某所​

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